こんにちは、みーばるです。
今回は、沢渡温泉街に立ち並ぶ建物の一つである「旧沢渡館」から、
櫻井隆平さんの『Shapes of Transition』をご紹介します。
作品がある場所は、建物の1階と2階です。館内に入るとすぐ、
何か機械のような物音が聞こえてきます。音の方に行ってみると、何やら昔のミシンが。
実際に動いているわけではないのですが、その臨場感のある音によって、
まるで誰かがそこにいて、今まさに何かをミシンで縫っているような、
そんな錯覚を覚えました。
次に2階に行ってみると、まず目に入ったのが緑色の男の子のような人物の彫刻と
、布団から足だけ出ているのが見える薄暗い部屋でした。
まるでその部屋のある日のシーンを切り取ったような空間。
リアルな雰囲気に圧倒されました。
次の部屋にはモニターが置いてあり、
水道管から水が流れている映像が流れていました。
流水音とともに聞こえてくるのは人々のがやがやした話し声。
余談ですが私たちが最初に旧沢渡館に入った時、
人気があまりなかったにも関わらず人々の話し声が聞こえたのはこれかと納得しました。
真ん中の廊下には、窓側でうたた寝をしている男性の彫刻がありました。
机にはビールの缶とタバコ、そして灰皿があります。
温泉を堪能して一服しながら涼んでいるのでしょうか、
当時の風景が思い起こされます。
また次の部屋には人物の彫刻はありませんでしたが、
布団は乱れ、扇風機のスイッチが入ったままになっていました。
さらに机の上には急須や団扇が置いてあり、
ラジオも付けっぱなしになっています。ついさっきまでそこに人がいたかのような、
今にも部屋に誰かが戻ってきそうな、そんな気配がします。
先に進んでいた友人が、驚きの声を上げました。
何かと思って見に行くと、やはり人物の彫刻が置いてありました。
この部屋の彫刻は、突き当たりに向かって進むことによって姿を表します。
そのため急に現れたように見えて初見では驚いてしまうかもしれません。
女性のような人物がこちらに向かって手を伸ばしおり、
この部屋で起きたドラマに想像を膨らませてしまう空間となっています。
ここまでの一連の展示について、キャプションには
「旧沢渡館の営業当時の空気感を手がかりに、
かつてこの宿に流れていた時間や記憶を、彫刻や映像、
音を通じて空間に立ち上げている」と書かれています。
確かに、ここだけ時間がゆっくり進んでいるような、
そんな不思議な雰囲気がこの空間にはありました。
当時の日常だったものが、私たちにとっては非日常です。
そんなアンバランスさもこの作品の魅力に繋がっているのかもしれませんね。